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10月29日夜 時間堂「月並みなはなし」

ああああ、濃厚な時間。シンプルな舞台にエフェクトの計算なんかまるでなさそうな照明、音響。ストーリーと役者の発する空気感だけでこんなにも多くのものが手渡されるとは。ボディブローのようにじわじわと響いて来てます。

月への最初の移民の応募者の中で一つのチームとなった6人。合否はチームごとに決まり、敢えなく揃って落選。一組の夫婦以外はそれまでの面識はなく、試験を乗り越えるうちに緩やかな連帯感が生まれ、仲良くなった様子。残念会を開いた会場で選考委員から、この中から一人だけ行けることになったので、1時間話し合って決めるように告げられた。そこで6人は…。

ひどく残酷な状況設定。なのに腐るでもなく激しくもめるでもなく、一人でも行けるならと冷静に、お互いを思いやりながら話し合いを始める。罵りあったり殴りあったり暴れたり、こんな設定だったら人間の醜さを押し出すのが常道だろうに。私にとっては結構な予想外。もちろんいい方向で。

前半はキャラ紹介と関係性の提示。そんなに複雑でもないけどわりと丁寧親切に。後半、一人一人候補を消していくのはすごい緊迫感。この話し合いが実に誠実で。でも部外者を混ぜることで堅苦しくなりすぎない。個々の感情の揺れを繊細に描いてました。ちょっとおりこうさんすぎる反応な気もしたけど。

二組のカップルの対比も、細かいけど私にとっては見所でした。結婚前の方は男だけが応募。落ちたらプロポーズするつもりだったけどまだできず。女は妊娠したことを告げられず。再び巡ってきた敗者復活のチャンスに対する二人の態度の差。どうしても行きたい男を許し認めた女に対して謝る男。あそこでごめんはないよ。女は賢く強く、男は残酷でしかもかっこ悪。

逆に夫婦の方は。優秀な妻とぼんやりした夫、行きたいのは二人とも。けど復活戦に残れるのは一人。妻は二人で行くことに意義があると早々に権利を放棄し、夫の勝ち抜けを阻止しようとする。夫は妻がいたからダメな自分でもやっていける、帰る所があるからがんばれる、だから一人でも行きたい、と粘る。どっちも相手を愛しているなら当然な反応。気持ちとしては女側だけど、かっこいいのは男だった。これだけもめて二人ともダメだった時の今後の生活にわだかまりは残らないだろうかと、心配になりました。あんた、私を置いて行こうとしたくせに、って(笑)。

最後のどんでん返しも迫力。みんなの反応が。後ろ姿からも表情が見える気がするほど。エリートとして選ばれ続けた男が、選ばれた時の言葉「私がみんなの立場だったら祝福できない」に対して、選考委員の言葉「選ばれる人間より選べる人間が欲しい」。痛くて辛くて。自我の崩壊。精神を病んでしまいそう。すごい表情でした、中田顕史郎さん。歯軋りが聞こえてきそう。この人は今後彼女に支えられて立ち直れるのかしら?と、またしてもストーリー外の心配(笑)。

長くなりました。こういう作り方、黒澤世莉さんの姿勢に賛同。応援したいです。お客さんとして乞局の下西啓正さんやブラジルの辰巳智秋さんやMCRに出ていた中川智明さんやたくさんの観たことある方達がいらっしゃいました。内輪の人が多いっていうのがもったいない。

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